File 15. Chilli Eskimo

 

今最も話題性の高いC

ねてから定評のあるブランドとして知られていましたが、シェイパーのエリック・アラカワが最も大きな注目を集めたのは、アンディ・アイアンズが初めてワールドタイトルを獲得してからの数年間であったように思います。2003年にはアメリカのSurfer MagazineからShaper of the Year(シェイパー・オブ・ザ・イヤー)という賞を授与されています。それがいつの間にか、アンディってJSに乗っているらしいよ、という噂が広まり、今では、アンディと言えばJS、JSと言えばアンディ、と言われるほどになり、さらには、アンディと言えばChilli、Chilliと言えばアンディ、ってな具合にささやかれるご時世となってしまいました。

すっかりJSやチリの陰に隠れてしまった感のあるHICですが、アンディはHICの板で最初のワールドタイトルを獲得した、ということに違いはありません。ですから、道具として、乗る人が乗れば世界タイトルだって取れるポテンシャルのある板なんだ、ということは疑う余地はないと思います。今では当時のようにもてはやされることのないHICですが、知名度や人気に比例して板のクォリティーまでもが上下することはないだろうと思われます。

実際に乗ってみると、今でこそ存在感の薄らいだ感じのあるHICのアンディモデルですが、これはこれで素晴らしい、と素直に思えます。テイストの好みによっては、JSやチリよりも、こっちの方が好き、という人がいても全くおかしくはないと思います。アンディがHIC以外の板に乗ることが多いのは、性能うんぬんは別として、もしかしたら単純に違ったスタイルの板を求めただけなのかも知れないし、本当のところはどうなのか分かりません。ですがいっそのことアンディという存在とは切り離して考えても、これはこれで良い板だと思います。

板を見てみると、割とボリューム感のあるタイプの板だな〜と感じます。波のパワーがあるエリアで、典型的なパワーフッターのために開発された板というのは、こんな風にボリュームのある板になるんでしょうか。板の肉付きは典型的なAUS系のそれよりも、アルメリックのような比較的ふっくらした感じに近いです。特にレールのセンター付近のボリュームは比較的しっかりしています。ロッカーは全体にナチュラルに付いている感じに見受けられます。あと、目立った特徴と言えば、テールブロックがやや広めであるところかと思います。

以前このコーナーでも取り上げた、アンディが乗るモデルとささやかれるコンバットもそうでしたが、この板もまた非常に良く回り、縦に入れる能力やトップでの返しの速さは相当なものがあります。コンバットよりかはテールに依存したタイプの回転性ではなく、もうちょっとナチュラルであるかも知れません。いずれにしても良く回ります。

HICのアンディモデルは、テール付近のエッジは比較的強いものの、フロント側のレールは比較的ソフトです。実際に乗ってみても、テール側のエッジによるキレとノーズ側のレールが持つルース性のコンビネーションが絶妙で、大変に動かしやすいにも関わらず、テール付近に心地良いキレのようなものを感じます。またそのうちアップできればと思うんですが、このテイストはチリにも共通している感じです。もしかしたらこのあたりがアンディ好みのテイストなのかも知れません。

HICの公式HPによれば、この板のコンケーブはtri-hull concave(トライハル・コンケーブ)であると書かれています。実際に手に取ってみてみると、フロントからシングルが入り、テール付近でシングルが深くなって、その中に浅いダブルが入り、サイドフィンの中心付近でダブルコンケーブの山のピークが極端に高くなっています。アルのTRI PLANE HULL(トライプレーンハル)と同様のコンセプトだと思うんですが、このテール部の盛り上がりがVEEのように作用し、テールの回転性を高めているんだと思われます。アンディのライディングに頻繁に見られるテールで波を強くえぐりながらもタイトに回し込むようなスタイルを目指す人には、こんな感じのシェイピングはうってつけかも知れません。単にエッジ感を強くするだけでは、ドライブ性は上がっても、ターン時のドラッグ(抵抗)も増してしまう可能性があるので、このあたりのバランスというか、シェイパーの味付けみたいなものはとても大切ではないかと思います。

もう一つ、この板の特筆すべき点と言えば、ターン時のレールの入れやすさや、レールトゥレールの切り返しの早さではないかと思います。アウトライン的には、特にシャープに絞り込んである感じはありませんし、レールだって比較的しっかりしたボリューム感があるにもかかわらず、不思議なくらいスパッと思い切り良くレールが入ります。また切り返しも大変早いです。レールは薄い方が入りやすいというのが通説ですが、この板はちょっと掟破りであるように思います。変に軽く動いてしまう板よりもレールの入りやすさにおいては優れている印象すら感じられます。トライハルコンケーブによるものなのか、ドーム状のデッキによるものなのか、他に何か仕掛けがあるのかは分かりませんが、単にテールにだけがクルクルと回るのではなく、板を素早く寝かし込めることで鋭くインに切れ込んで行くあたり、ちょっとただならぬフィーリングです。

テイスト的には、どちらかと言えば、軽いタッチで乗りたい人よりも、しっかりと波にプレスをかけながらもタイトなアークで回したい人向けではないかと思います。ヒラヒラ動くというより、グリングリン回す、といった感じです。

前足によるリードだけでも十分に動く感じのあるHICアンディモデルですが、前足のセットは少し引き気味が良いかも知れません。他の板ではほとんど感じたことはないんですが、掘れた波でトップターンをし傾斜のきつい斜面を下りるときに、荷重が前過ぎるとノーズが刺さることがありました。トップターンの後半では意図的にウェイトを後方に残すくらいでちょうど良いかも知れません。テールによる破壊力が驚異的なアンディのシグネチャーモデルですので、もしかしたら板のバランスがそんな風にテールのパンチ力を増すように作られているのだろうか?とも思いますが、深読みし過ぎかも知れません。本当のところは分かりません。

今回乗った板は、ハワイシェイプではなく、オーストラリアシェイプになりますが、湘南のようなエリアでも普通に活躍していますので、特にデザイン的にホローでパワフルな波質でないと性能を発揮しないとかいったことはなさそうです。

CJモデルのときも、パーコモデルのときもそうでしたが、誰々モデルというシグネチャーボードに乗ると、開発に携わったライダーのスタイルの片鱗を垣間見ることができます。アンディは板に対してどんなリクエストをしたのでしょう?プロサーファーは自分の身長や体重、板の長さなどの簡単な指定だけして、細かいところはシェイパーに任せてしまう人が多いと聞いたことがありますが、各プロモデルの性質がここまで違ってくるんですから、やはり、どこかにしっかりとしたコミュニケーションがあるんだと思います。かのアルメリックは契約ライダー達から父親のように慕われていると聞きますが、自分と接する唯一の道具を託すわけですから、大きな信頼関係があるのでしょう。

アンディはツアーの期間中頻繁に実家に帰省すると聞きます。地元への愛着が強いのでしょう。HICでは今もアンディモデルをリリースし続けていますが、アンディとエリック・アラカワとの間にも良好な信頼関係があるの知れません。

(2006/3/14)

 

  トップページ
  リンクです。